すっぱいブドウのきつねさんLOVE【初稿】

 まず何がLOVEかって、このきつねさん、ずっと一人きりなこと。ブドウをとろうとしているときの一生懸命さも、最後の捨てゼリフも全部自分のため。「君が一番正しいよ」って言ってあげたいけれど、誰かがきつねさんに話しかけたりしたらすべて台無しになってしまうので、そんなことはしません。これが慎みのあるオタクというアティチュード。

 そもそも童話って基本的に作者や編者の性格の悪さが滲み出るがごとく、頭のいかれた登場人物たちが人でなしみたいな行動を取るものが多い印象なのだけれど、そこに来るとこのきつねさんは泣きたいほどに人間らしい。しかも、かなり知能が高いことが伺えます。彼の姿を見て本気で「僕たちは余計な見栄を張ったりしちゃいけないんだ」などと思える人は今すぐ童話を書くべく、ペンを持ちましょう。

 さて、きつねさんの愛らしさと、知能の高さについて。まずきつねさんは高い木になっているブドウをしっかり見つけることができます。どうやら、以前ブドウを口にしたことがあるようで、その際の「ブドウは甘くておいしい。また食べたいな。」の思いを胸に抱きながら生きているので、再びチャンスに巡り合うことができるわけです。

 自分の記憶と経験から、チャンスを発見できる賢者、きつねさんは次に行動に移ります。たった独りで愚直にブドウに手を伸ばすのです!ここで、童話特有の、物語のためだけの浅はかな悪知恵なんてものをきつねさんは働かせません。「おや、そこのリスさん、ちょいとあれを見てごらん。木に何だかむらさきのぶつぶつがついているだろう。あれは木をだめにするものだから、君のご自慢の前歯でもってあれを落としてごらんなさい。」などと始まろうものなら、即座に本を閉じて、深呼吸をしなければならないけれど、きつねさんはそんなことはしない。木になっているブドウも、この物語もすべてきつねさんだけのものだからです。別の世界に、自分で柿を取れないからサルを頼り、最終的に虐殺するカニがいましたね。あれとは大違いです。ちなみに、あの童話が元になってフジテレビ系列「スカッとジャパン」という番組が生まれ、高視聴率を獲得しているらしいです。

 素直で賢いきつねさんでも、どうしようもないことはあるようで、どうしてもブドウに手が届かない。そこでの最後のひとことで、この物語は完成します。「ふん、どうせ、あのブドウはすっぱいに違いない。」くぅ~~~~~。そう!君が手にできないものなんて、君にとっては何の価値もないんだ!マジでほかのやつのことなんか気にしちゃいけない。世界は君のためにあります。LOVE。全部正しい。あと、超かっこいいですそのセリフ。人生でなにを吐いてみたいかって、かっこいい捨てゼリフだよなあ。

 本人に伝えられない分、ひとりで憧れを吐露したところでこの文章を終えてももちろんいいのですが、あとひとつだけ。ごんぎつねさん、あなたは反省してくださいね。言葉も無しに他人に思いを押し付けること、あまつさえ、「わかってもらえる」などと考える態度は誰も救いませんよ。そんなだから死んでしまってなお、「どんぎつね」とかいって日本の企業に馬鹿にされてるんですからね?

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